搭乗手続き(小松空港)

先日、小松空港(石川県)の利用状況の概要が発表された。旅客機は北陸新幹線開通以降で見れば好調であるが、貨物機は米中摩擦の余波を受け心配である。
以下に、2018年度に於ける小松空港の利用状況を旅客機と貨物機に分けて、もう少し掘り下げて述べる。

なお、本記事で使用している矢印記号の意味は次のとおり。
 上昇: 利用者数又は取扱量が前年に比べ上昇
 下落: 利用者数又は取扱量が前年に比べ下落
 横ばい: 利用者数又は取扱量が前年と同じ

また、本記事内の「年度」とは、国の会計年度に合わせた4月1日から翌年の3月31日までのことである。

旅客機の利用状況

国内線と国際線全体の利用者数は、2017年度が171万2817人、2018年度が182万4828人であり、6.5%の増加となった。全ての路線で利用者数が2017年度を上回り、北陸新幹線金沢開業(2015年3月)以降で見ると好調と言える。
国内線及び国際線の詳細状況は次のとおりである。

国内線

国内線全体の利用者数は158万1054人と前年比は4.7%増加であり、2年連続150万人を超えた。全路線で増加したが、増加率10%を超えているのは仙台便(11.2%)である。仙台便が大幅に伸びた要因として、北陸新幹線の仙台直通列車が運行(但し、特定の日の運行)に伴う石川県に対する知名度アップに加え、現地仙台での誘客キャンペーンの効果が考えられる。小松空港羽田便と北陸新幹線の競合がクローズアップされがちだが、効果の度合いは別にして相乗効果の面もある良い実例である。

そうは言っても、一般的に羽田便は地方空港にとって重要な路線であるが、小松空港も同様で利用者数は国内線全体の72%、国際線を含めた全体でも63%を占める最も重要な路線であることから、利用状況の動向が注目されるのは当然のことである。
北陸新幹線開業(2015年3月)後の羽田便利用者の前年比推移を見ると、次のとおりである。
  • 2015年度:35.8% 下落(利用者数:112万4107人。2015年3月に北陸新幹線開通。)
  • 2016年度:7.2% 下落
  • 2017年度:0.4% 上昇(下げ止まる。大雪により182便が欠航。)
  • 2018年度:4.2% 上昇(利用者数:114万4115人。暖冬で2便のみの欠航。)
また、2018年度は4.2%増と増加率も拡大しているが、その要因は次のとおりである。
福井県の客の取込み
石川県の南西側隣の福井県には福井空港があるものの定期便の発着がなく、グライダー、セスナ機及び消防防災ヘリコプター等の発着に使われている。そのため、福井の人が東京へ行くには、地元の空港を利用する選択肢がなく、米原経由の列車を使うか、小松空港を使うことになる。そこに目を付けた石川県が福井県での需要開拓を積極的に行い、福井県の客の取込みに成功している。
ビジネス客の取込み
北陸新幹線により奪われたビジネス客を取り戻すため、駐車場無料券などの特典を付けた「ビジネス利用サポートキャンペーン」を実施していて、加盟企業数は2018年末時点で2015年末に比べて3倍の1871社になっている。特に福井県の企業は14倍の449社になっている。
降雪量の影響

2017年度の北陸は、記録的な大雪に見舞われ雪による欠航は182便であったが、2018年度は暖冬となり欠航は2便のみであった。このことが2018年度の増加率に反映されたのは明らかである。調査をしていないが、2017年度の大雪では多くの客が運行し続けた北陸新幹線に流れたと推測する。
北陸地方の在来線の電車は、積雪の対策が施されているので元々積雪に強く、都会の電車のように5㎝程度の積雪で運休することはあり得ない。しかし、2017年度(2018年2月)の大雪では在来線の多くの区間で運休や遅れが発生し、雪に強い北陸の電車も太刀打ちできなかった。ところが、北陸新幹線は殆ど運休することがなく、ダイヤ通りに運行し、積雪にとても強いことを立証した。北陸新幹線が積雪に強い理由は、トンネル区間が多く、トンネルとトンネルとの間の短い区間は(屋根を覆う)スノーシェルターが設置され線路に雪が積もる区間が少なく、また雪の積もる区間でも貯雪式高架橋を採用したり、幾つもの対策が施されているからである。
私が、北陸新幹線が在来線に比べても積雪にとても強いことを知ったのはこの大雪の年である、東京へ行くのに運休や遅れの心配があり、出発直前に積雪の影響を確認した上で、北陸新幹線を利用するため下り電車に乗るか、米原経由で東海道新幹線を利用するため上り電車に乗るか決定しようと考えていた。この出発の前日に、参考程度の気持ちで最寄りの小松駅に状況確認したところ、駅員から自身たっぷりに「北陸新幹線を利用すべきだ」とのアドバイスを受けたからである。

なお、直近の羽田便の増加率を見ると回復は堅調のようにも見えるが、安心できるものでない。と言うのも2023年には北陸新幹線は敦賀(福井県)まで延伸され、小松空港がある小松市と小松空港の利用の多い福井県の県庁所在地の福井市にも新幹線駅ができるからである。この場合、新幹線を利用して小松駅まで向い、そこから小松空港を利用する流れが期待できるが、逆に現状小松空港羽田便を利用している小松市などの南加賀の人や福井県の人が北陸新幹線に流れるケースも確実に発生し、トータルで再び羽田便減少の要因になる可能性もあるからである。

国内線 2017年度利用者数 2018年度利用者数 前年比
羽田便 1,097,812人 1,144,115人 4.2% 上昇
札幌便 80,799人 84,115人 4.1% 上昇
福岡便 169.102人 178,398人 5.5% 上昇
仙台便 53,223人 59,158人 11.2% 上昇
那覇便 73,286人 76,561人 4.5% 上昇
成田便 34,281人 35,328人 3.1% 上昇
チャーター便 1,426人 3,379人 137% 上昇
合計 1,509,929人 1,581,054人 4.7% 上昇

国際線

国際線利用者は、24万3874人で20.2%の大幅増となり、前年度の最多を更新した。定期便の3路線全てで前年度を越え、増加率は次のとおり。
  • 台北便:23.6% 上昇
  • 上海便:20.1% 上昇
  • ソウル便:14.4% 上昇

また、チャーター便は、前年度に比べ減便されたものの香港チャーター便の機材大型化もあり、全体として15.0%増となり好調である。

国際線が好調の要因はインバウンド需要の増加である。また、小松空港は昨年(2018年1月)に台北便のLCC(格安航空会社)が就航したことも後押しした。ただ、国際線には弱点があり、アウトバウンド需要がインバウンド需要に比べ相当少なく、将来減便(更には撤退)のリスクを合わせ持つ。

国際線 2017年度利用者数 2018年度利用者数 前年比
ソウル便 36,624人 41,892人 14.4% 上昇
上海便 35,787人 42,963人 20.1% 上昇
台北便 104,178人 128,773人 23.6% 上昇
チャーター便 26,299人 30,246人 15.0% 上昇
合計 202,888人 243,874人 20.2% 上昇

貨物機の国際貨物取扱状況

貨物機の国際貨物取扱量は、5年ぶりに前年度を下回り、1万5557トンとなった。この要因は米中貿易摩擦であり、その影響で日本全体の貨物量が減り、その余波を受けてしまった。

小松空港は、昨年度までカーゴルクス航空(欧州のルクセンブルク)が週3便、シルクウェイ・ウエスト・エアラインズ(中東のアゼルバイジャン)が週2便、定期運航していた。
昨年度(2018年度)は、輸出が4.5%増、輸入が8.2%減でトータル1.5%減となり、特に米中貿易摩擦の影響は昨年(2018年)末から大きく、アゼルバイジャン便の輸出量が10分の1以下に激減し、先月末(2019年6月30日)から無期限の運休に入った。運航会社は撤退しない方針のようだが、再開の目途が立っていない。

運休の話が出る前、小松空港は貨物量の増加に備え、2021年度末までに駐機場を現在の1機から2機にする計画と聞いていたが、この事業計画は頓挫するのだろうか?

年度 輸入取扱量 輸出取扱量 合計取扱量 前年比
2012年 8,211t 3,373t 11,584t
2013年 5,936t 3,068t 9,004t 22.3% 下落
2014年 6,217t 4,585t 10,802t 20.0% 上昇
2015年 6.540t 4,319t 10,859t 0.5% 上昇
2016年 7,094t 7,359t 1,4453t 33.1% 上昇
2017年 7,490t 8,302t 15,792t 9.3% 上昇
2018年 6,879t 8,678t 15,557t 1.5% 下落