超電導リニア(L0系)

超電導リニアの仕組みは、一般の鉄道と大きく異なるので興味が湧く。以下に、私が理解している範囲で仕組み等について解説する。

一般の鉄道の問題点

一般の鉄道は、2本のレール上に鉄製車輪が乗り、車輪が次のことを行なっている。
  • 支持:車体を下から支えている。
  • 案内:車体の進行方向を誘導する。
  • 推進:レールに沿って車体を走らす。

ただ、一般の鉄道には次の問題点がある。

推進

車輪が滑らず踏ん張って推進できるのは、レールと車輪の接触部分に摩擦があるからである。この接触部分に働く摩擦力のことを「粘着力」と言うが、車輪が転がりながらレールを蹴って進もうとする力が、粘着力を超えると、車輪が滑って空転する。また、空気抵抗は速度の2乗に比例して大きくなるため、ある速度まで上がると粘着駆動で前進する力と空気抵抗がつり合う状態になり、それ以上の速度を出せなくなり、車輪が空転する。つまり、高速走行に限界がある。
更に、粘着力は、雨が降るだけで大きく影響を受けるので、安定した推進力を得ることができない。

支持

車輪の幅はレールの幅にピッタリ噛み合っているのでなく、多少の隙間を持たせている。と言うのも、カーブを滑らかに曲がるためであるが、車輪の動きを不安定させる要因にもなり蛇行動の原因となる。蛇行動が発生すると、乗り心地が悪くなるだけでなく、場合によっては脱線に繋がる可能性もある。この蛇行動は高速走行に発生し易く、またレールと車輪が接触していることから高速走行になるほど騒音が大きくなる。
以上の問題は、鉄輪式から浮上式に替えれば解決する。
※ 鉄輪式の最高速度
一般の鉄道の限界速度は、昔は時速300kmと言われていた。しかし、技術が向上し、西暦2007年にTVG(車輪で支持するフランスの高速鉄道)が時速574km(営業速度:320km)を記録している。
右の動画は、TVGが574kmを出した時のもの。迫力のある映像で興味深いが、鉄輪式の車両だと思うと、恐怖が先に立ち体験乗車したい気持ちになれない。また、走行中の騒音も大きそうで、これも恐怖心を増幅させる。

リニアモーターとは

一般の電車は、回転式の電動モーターを使って車輪を回転させている。回転式モーターは、内側で回転するローター(回転子)と外側で固定されたステーター(固定子)で構成されている。ローターの回転に従ってステーターの磁場(=磁界)の向きを切り替えることにより、途切れなく内側のローター(磁石)が回転できる。
一方、リニアモーターは回転式モーターを直線状に引き延ばしたものである。平らになったステーターに並べられている電磁石の極性を切り換える(磁場の向きを切り換える)ことで、回転式モーターの内側にあった磁石が途切れなく平らなステーターに沿って動くことができる。

超電導リニアでは、回転式モーターのローター(内側)部分が車両側面に搭載されている超電導磁石に相当し、回転式モーターのステーター(外側)部分が地上のガイドウェイ(断面が凹字状の案内走行路)側壁の推進コイルに相当する。

回転式モーター、リニアモーター、超電導リニアとガイドウェイの関係
ちなみに、リニアモーターカーとはリニアモーターにより駆動する鉄道車両のことであり、浮上するか否かは関係ない。従って、「推進」にリニアモーターを使用し、「案内」及び「支持」に従来の電車と同じレールと車輪を使用して走行する「鉄輪式リニア―モーターカー」もある。日本に於ける鉄輪式リニア―モーターカーは、次のメリットから地下鉄で運営されている。
  • トンネル・車両の断面積を縮小した「ミニ地下鉄」が開発され、建設費を節減できる。
  • 都市の地下空間はケーブル・配管・別トンネル等で混雑しているため、トンネルの建設には勾配が発生し易いが、粘着力による推進でないので急勾配に強く、また従来の車両では構造上あまり急カーブを作ることができなかったが、急カーブにも対処できる。

超電導磁石を使う理由

超電導リニアは、磁石間の吸引力・反発力を利用して浮上するが、車両は重いので非常に強い磁場が必要になる。
永久磁石では車両を走行、浮上させるだけの磁場を発生させることができないので※1、電磁石※2を使って実現している。

電磁石は、流す電流を増やせば磁場は大きくなるが、通常の電磁石(常電導磁石※3)では導線に電気抵抗があるため、大きな電流を流すと発熱し、最終的には導線が燃えてしまう問題があるため、非常に強い磁場を発生させることができない。このことは、電気抵抗がない導線であれば、どれだけ大きな電流を流しても熱が発生することがないので、強い電磁石を作ることができることを意味する。

そこで、超電導リニアでは、電気抵抗ゼロの状態にしたコイルの電磁石(超電導磁石)で、強力な磁場を発生させている。
ある特定の物質を混ぜ合わせて作った材料を冷やすと電気抵抗がなくなる現象(超電導現象)が起こる。 ちなみに、超電導状態に変わる温度のことを「臨界温度」と言い、超電導を示す物体のことを「超電導体」と言う。
現在の超電導リニアで使われている超電導材料はニオブ・チタン合金である。沸点がマイナス269℃(絶対零度+4℃)の液体ヘリウムで冷やし電気抵抗ゼロにした超電導コイルを実現している。
超電導リニアの超電導磁石が発生する磁場は、約5万ガウスであり、力に換算すれば1平方センチメートル当たり100kg(1㎡当たり100t)の強い力である。

また、強力な磁場を発生させる超電導磁石を車両に搭載することは次の経済的メリットもある。
超電導リニアはガイドウェイ(断面が凹字状の案内走行路)に並べられたコイル(電磁石)と車両のコイル(電磁石)の間に発生した磁力(磁極と磁極の間に働く力)により浮上走行する。この磁力の大きさは、両磁石の起磁力(磁束を生じさせる力)の積に比例する。従って、一定の磁力を考えた場合、一方の起磁力が強ければ、他方の起磁力は弱くすることができる。つまり、ガイドウェイに並べられたコイルの数は、車両搭載の電磁石に比べ圧倒的に多いため、車両に起磁力を大きい超電導磁石を搭載することによりガイドウェイ側電磁石の起磁力を弱くできることになり、コストを削減できる。

参考までに、従来の(低温)超電導磁石より高温でも超電導状態が維持できる「高温超電導磁石」も存在する。高温と言っても極低温の世界であることは変わりがない(マイナス255℃程度)。しかし、従来の(低温)超電導磁石はマイナス269℃を作り出すため液体ヘリウムに浸す必要があったが、高温超電導磁石では冷凍機でコイルを冷却するだけで良いため、磁石の構造を簡素化でき、省メンテナンス・低コスト化が期待できる。ただ、まだ本格導入の段階に至っていない。
次の写真は、どきどきリニア館で展示している超電導磁石である。左手前側は宮崎実験線で走っていた「MLU001」に搭載されていた従来の「(低温)超電導磁石」の実物で、右奥側は2005年に山梨リニア実験線で試験走行で搭載された「高温超電導磁石」の模型である。

(低温)超電導磁石と高温超電導磁石
超電導磁石と高温超電導磁石

技術の向上に伴い、現在では中国をはじめとした他国で、永久磁石を利用したリニアの開発が進められている。地上側に永久磁石を敷き詰め、その上に高温超電導体(バルク超電導体)の車両を置くことにより、磁気浮上させ永久磁石のガイドウェイを走行させるリニアの開発が行われている。

電磁石は、コイル(導線をらせん状に巻いたもの)に電流を流すことで磁場を発生させる磁石のこと。永久磁石と異なり電流が流れなくなれば磁石の機能はなくなる。また、磁場の方向は、電流が流れる方向で決まる(社会人には懐かしい「右ねじの法則」)ので、電流の流れる方向を変えることにより磁極を変えることができる。
なお、電磁石の強さは、コイルの巻き数とコイルに流れる電流の強さの積に比例する。

常温下でコイルに電流を流し、磁場を発生させる磁石。常温化であるため電気抵抗は0ではない。上海で運営されているリニア(ドイツが開発したトランスラビット方式)は、常電導磁石で浮上させている。超電導リニアは10cmの浮上するのに対し、トランスラビットは8mmしか浮上しない。

浮上走行の仕組み

超電導リニアは、一般の電車の様なレールに乗って走行するのでなく、ガイドウェイ(断面が凹字状の案内走行路)を浮上して走行する。
浮上走行を可能にする仕組みとして、「推進」(車両の前進)、「浮上」(車両の浮上)及び「案内」(車両の左右のズレ調整)があり、以下に各仕組みについて解説する。
なお、ガイドウェイ側壁には、「推進コイル」及び「浮上・案内コイル」が設置されている。推進コイルは車両から見て側壁の奥側に設置され車両を推進させる役割を担い、浮上・案内コイル(8の字型コイル)は車両から見て側壁の手前側に設置され車両の磁気浮上と案内の2つの役割を担っている。

推進

コイルに電流を流すと電磁石となるが、側壁の推進コイルは地上の電力変換変電所から電力が供給されることにより電磁石となる。車両は搭載している超電導磁石と推進コイルとの間で発生する吸引・反発の磁力により推進している。
推進コイルを電磁石にする必要があるのは超電導リニアが通過する時なので、通過する時のみ対象の推進コイルに電流を流せば良いが、超電導リニアが通過する位置に合わせて、吸引・反発する位置が変わっていかないと推進し続けることができない。従って、走行している車両に搭載されている超電導磁石の磁極は固定なので、推進コイルの方で通過する超電導磁石の磁極に合わせて磁極を切り換えている
この磁極の切り替えは推進コイルに交流を流すことにより実現していて、同期させることにより(電流の周波数を車両の速度に応じて変えることにより)、推進し続ける仕組みである。
逆に推進コイルに推進時とは逆の磁極を発生させるようにすれば、車両にブレーキを掛けることができる。また、車両の駆動力は電流の大きさに比例するので、電流の大きさで駆動力を制御できる。
このように、超電導リニアは速度制御と電力供給を地上でコンピューター制御しているので、運転手が乗車していない。

超電導リニアの推進の仕組み

なお、超電導リニアのギネス記録は時速603kmであるが、速度を上げるには理論上では周波数を高くすれば良いので、更なる高速も容易に可能の様に思ってしまうが、空気抵抗の問題※4があるので容易ではない。
空気抵抗は速度の2乗に比例するので、時速500kmから1,000kmに上がれば空気抵抗は4倍(2倍の2乗)になる。そうなると、使用する電力も大きくなり運行費用に影響し、また車両の強度も問題となる。

海外では、空気抵抗の問題を解決するハイパーループ構想が現実味を帯びつつあり、注目を集めている。この構想を提唱したのは、テスラモーターズ(電気自動車)やスペースX(宇宙開発)のCEOであるイーロン・マスクである(なお、開発は他社に委ねている)。
ハイパーループは、チューブの中を「ポッド」と呼ぶ車両が浮上走行する。チューブ内は減圧されているので空気抵抗が抑えられ、また浮上するので摩擦もなく、超高速(時速1200kmを目指している)の走行が可能となる。なお、超電導リニアと同じ磁気浮上方式であるが、超電導磁石でなく永久磁石が使われるもよう。
日本の超電導リニアは1962年に研究が始まり、1979年に浮上走行に成功し、長い歳月を経てようやく開業に漕ぎ着けようとしている。一方、イーロン・マスクがハイパーループ構想を発表したのは2013年であり、昨年(2017年)7月には実物大の車両を使ったテスト走行で時速310kmを達成していて、加速距離を伸ばせば現時点でも更に速度を上げられるようだ。開発スピードが凄まじく、現状課題が幾つもあるだろうが順調に開発が進めば、超電導リニアが開業する2027年頃には、超電導リニアがコストのわりには中途半端な速度の運搬手段と評価されていないか心配である。

浮上

ガイドウェイの両側側壁には、浮上・案内コイル(当浮上の解説に於いては、以下、便宜上「浮上コイル」と表現する。)が並べられているので、超電導磁石を搭載した車両が走行すると、浮上コイルに電磁誘導※5が起こり誘導電流※5が流れ電磁石になる。この時、磁場の向き(電磁石の磁極)と流れる電流の向きには「右ねじの法則」が成り立つ。つまり、コイルにできる磁場の向きが右ねじの回る向き(時計回り)で、コイルに流れる電流の向きが右ねじの進む向きとなる。
また、浮上コイルは、上下2つのコイルが8の字型に接続されているので、それぞれ逆向きの誘導電圧(電磁誘導により誘起される電圧)が生じ、またコイルに流れる電流は上コイルと下コイルでは、逆回りとなる。

ここで、車両に搭載された超電導磁石と側壁の浮上コイルとの高さの位置関係からなる次の3パターンで、どのような磁力(吸引力・反発力)が発生するか見てみる。なお、「浮上」の説明に於いて余計な状態を省いた方が理解し易いため、車両がガイドウェイ両側壁の中央を走行している前提で解説する。

超電導磁石が浮上コイルの中心を走行する場合

超電導磁石の磁場を打ち消す磁場ができるような誘導電圧が上下2つのコイルに発生するが、超電導磁石が2つのコイルの中心を通るため電圧は同じ大きさになる。2つのコイルは互いの誘導電圧を打ち消すように接続されているため、同じ電圧だとコイルに誘導電流は流れない。言い方を替えれば、8の字コイルに発生する磁束(フラックス)が、上コイルと下コイルで打ち消し合い、ゼロ(ヌル)になり(ヌルフラックス)、誘導電流がゼロになる。誘導電流が流れなければ車両に搭載されている超電導磁石との間に磁力が発生しないので、浮上等の力が発生しない。

超電導磁石が浮上コイルの中心を走行する場合の仕組み

超電導磁石が浮上コイルの中心より下を走行する場合

上コイルよりも下コイルに発生する誘導電圧が大きくなり、下コイルの誘導電圧に応じた向きの誘導電流が上下コイル全体に流れる。この時、下コイルは超電導磁石と同極となり反発力が発生し、上コイルは下のコイルと逆回りの電流が流れるので超電導磁石と異極となり吸引力が発生する。つまり、車両を浮上させる力となる。また、この浮上力は、超電導磁石が通る位置が浮上コイルの中心から下へズレる程、大きくなる。

超電導磁石が浮上コイル中心より下を走行する場合の仕組み

なお、超電導リニアの安定した走行位置は、浮上コイルの中心でなく、車両の重量に釣り合う分の浮上力が必要なため、中心より下にズレる。

超電導磁石が浮上コイルの中心より上を走行する場合

中心より下を通る場合と逆の現象となる。下コイルよりも上コイルに発生する誘導電圧が大きくなり、上コイルとの間に反発力が、下コイルとの間に吸引力が発生する。つまり、車両を下へ引き戻す力(復元力)となる。これにより、超電導リニアがガイドウェイから飛び出すことなく、安定した浮上を実現している。

超電導磁石が浮上コイル中心より上を走行する場合の仕組み

なお、電磁誘導による磁力は、車両が停止していると浮上コイル内の磁束(磁場の強さと方向)が変化しないので発生しなく、走行して初めて発生し速度が速くなる程大きくなることから、ある一定速度(体験乗車から判断すると時速140km台)を超えないとリニアを浮上させるだけの磁力が発生しない。よって、時速140km台未満では支持車輪によるタイヤ走行となる。

「電磁誘導」とはコイル内の磁束が変化するとコイルに電圧が生じる現象で、この時に流れる電流を「誘導電流」と言う。電流の向きは磁束の変化を打ち消す向きの磁束ができるように流れる。

案内

超電導リニアは、車両がガイドウェイの両側壁の中央から左右どちらかにズレた場合に、元の中央に戻す「案内」の仕組みがあってはじめて、安定した浮上走行が可能となる。
車両を浮上させるには常に車両の重量を支持する磁力が必要となるが、案内のための磁力が必要になるのは横にズレる場合だけである。よって、ズレていない状態では左右調整の磁力が不要なので、できるだけコイルに電流を流さない仕組みの方が経済的である。
この仕組みに適合した方法として、左右側壁にある浮上・案内コイル(当案内の解説に於いては、以下、便宜上「案内コイル」と表現する。)同士を接続するヌルフラックス方式により、左右それぞれのコイルで発生する誘導電圧に差が生じた時だけに電流が流れる仕組みである。

ここで、車両とガイドウェイとの左右の位置関係からなる次の2パターンで、どのような磁力(吸引力・反発力)が発生するか見てみる。なお、「案内」の説明に於いて余計な状態を省いた方が理解し易いため、車両が案内上下コイルの中心を走行している前提で解説する。

車両がガイドウェイの中央を走行する場合

右側の案内コイルと左側の案内コイルとは電磁誘導によって発生する電圧が等しいため電流が流れなく、案内の磁力が発生することはない。

超電導磁石がガイドウェイの中央を走行する場合の仕組み

車両がガイドウェイの中央から横にズレて走行する場合

案内コイルの上下それぞれに言えることであるが、車両が近づいた側の案内コイルの誘導電圧は、遠ざかった側の案内コイルの誘導電圧より大きくなり、電流が流れる。この時、近づいた側の案内コイルは超電導磁石と同極となり反発力が発生し、遠ざかった側の案内コイルは超電導磁石と異極となり吸引力が発生する。つまり、車両を中央に引戻す力(復元力)となる。

超電導磁石がガイドウェイ中央から左にズレで走行する場合の仕組み

このようにして、車両は常にガイドウェイ中央を走行するように案内されることになる。この案内力も浮上力と同様に、速度が上がる程に大きくなり、高速での車両の姿勢はより安定する。また、低速走行では案内力が不足するので、支持車輪と同様に案内車輪を左右に出しガイドウェイ側壁と接触させ、車両を案内している。

以上の解説から分かるように、推進に関しては地上の電力変換変電所から推進コイルに電流を流し電流を制御する必要があるが、浮上及び案内に関しては電磁誘導を使うことにより、地上から浮上・案内コイルに電流を流す必要もなく、一定の浮上の高さでガイドウェイの中央を走行するよう自然に制御され、上手くできた信頼性の高いシステムである。