護衛艦「いずも」(DDH-183)

ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)は、昨年(2018年)に於いて空母化の閣議決定や南シナ海・インド洋への派遣訓練など、何かと脚光を浴びていることからDDHについて解説する。
まずは「護衛艦とは」どう言う艦艇なのかを述べた上で、「DDH(ヘリコプター搭載護衛艦)の詳細」について述べて行く。

護衛艦と言うと船団等を護衛するイメージを持つが、海上自衛隊の「護衛艦」とは他国の「駆逐艦」に相当する。建前上、自衛隊は軍隊でないので、軍艦である駆逐艦と名乗らず護衛艦と名乗っているに過ぎない。現在の駆逐艦は、対潜、対空、対艦と幅広い能力を持ち、任務は多様化している。

海上自衛隊が保有する現役の護衛艦は、以下の4種類に分類される。

汎用護衛艦

汎用護衛艦(DD)で、多用途戦闘艦である。なお、海外で「Destroyer」と言えば、駆逐艦のことである。

DD-119 「あさひ」(護衛艦「あさひ」型)
DD-119 「あさひ」(護衛艦あさひ型)
  • 基準排水量:5,100t
  • 長さ×幅:151m×18,3m
  • 哨戒ヘリコプター1機を搭載。

ミサイル護衛艦

他の護衛艦もミサイルを搭載しているが、ミサイル護衛艦(DDG)は艦隊防空用の特に優れた対空ミサイルを搭載している。
1990年代以降に就役したDDG(こんごう型及び、あたご型 )はイージスシステムを搭載してる。

DDG-177「あたご」(護衛艦あたご型)
DDG-177「あたご」(護衛艦あたご型)
  • 基準排水量:7,750t
  • 長さ×幅:165m×21m
  • 哨戒ヘリコプター1機を搭載(常時搭載機なし)。

ヘリコプター搭載護衛艦

ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)は、他の護衛艦と違い、複数の哨戒ヘリコプターを搭載できる。
現役のDDHは、どれも全通甲板であり複数機連続発着が可能となった。

DDH-183「いずも」(護衛艦いずも型)の後方上空から
DDH-183「いずも」(護衛艦いずも型)
  • 基準排水量:19,950t
  • 長さ×幅:248m×38m
  • 哨戒ヘリコプター7機、救難・輸送ヘリコプター2機

近海警備用護衛艦

近海警備用護衛艦(DE)は「小型護衛艦」とも言われ、汎用護衛艦をコンパククト化し、多様な任務への対応能力の向上を目的としたものである。各地方隊で運用され、おもに沿海域で任務している。

DE-229「あぶくま」(護衛艦あぶくま」型
DE-229「あぶくま」(護衛艦あぶくま型)
  • 基準排水量:2,000t
  • 長さ×幅:109m×13.4m

海上自衛隊が保有するDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)は、搭載するヘリコプターを運用するだけでなく、さまざまな役割を担うための能力を持っている。
現役のDDHは4隻であり、その全てがヘリコプターを発着艦させるための甲板が艦全体を覆う全通甲板を採用し、また艦橋も艦尾から艦首に向かって右端にあるため、ヘリコプターを甲板に並べて駐機できる。見た目は航空空母そのものであり、「ヘリ空母」とも言われている。
以下、DDHの詳細について、「DDHの分類」、「DDHの用途」、「ひゅうが型といずも型の比較」及び「運用面での変貌」の観点から解説する。

現役DDHは、2つの型があり、各型毎に2隻が存在し、全体として4隻である。
型名、そのスペック及び各艦名は以下のとおりである。

ひゅうが型

  • 基準排水量:13,950t
  • 主要寸法:長さ 197m、幅 33m、深さ 22m、喫水 7m
  • 馬力:100,000PS
  • 速力:30kt ※1
  • 乗員:約380人
  • ヘリ:哨戒ヘリ×3機、掃海輸送へり×1機(最大搭載機数11機)
  • 備考:それまでのDDHと比べた特徴は、全通甲板になり、同時に複数のヘリを発着艦できる性能を持つことになる。
DDHー181「ひゅうが」(2009年3月18日竣工)
DDH-181「ひゅうが」(護衛艦ひゅうが型)
DDHー182「いせ」(2011年3月16日竣工)
DDH-182「いせ」(護衛艦ひゅうが型)

いずも型

  • 基準排水量:19,950t
  • 主要寸法:長さ 248m、幅 38m、深さ 23.5m、喫水 7.1m
  • 馬力:112,000PS
  • 速力:30kt※1
  • 乗員:約470人
  • ヘリ:哨戒ヘリ×7機、輸送・救難ヘリ×2機(最大搭載機数14機)
  • 備考:全通甲板
DDHー183「いずも」(2015年3月25日竣工)
DDH-183「いずも」(護衛艦いずも型)の側面
DDHー184「かが」(2017年3月22日竣工)
DDH-184「かが」(護衛艦いずも型)の前方上空から
ノット(knot)の記号。1時間に1海里(1.852km)進む速さの単位であり、1ktは時速1.852kmである。例えば30ktとは時速55.56kmのことである。

DDHは「ヘリ空母」とも言われるように、哨戒ヘリコプターによる対潜作戦として働くことを目的にしているが、それ以外にも幅広い任務に対応する多用途性を持ち合わせている。DDHの用途として、以下のものが挙げられる。

対潜水艦

潜水艦は海軍兵器の中で手強い存在であるが、潜水艦の天敵となるのが哨戒ヘリコプターであり、その哨戒ヘリコプターを搭載するのがDDHである。現役DDHはどれも全通甲板であることから、複数の発着艦スポットが確保されヘリコプターを同時に発着艦可能となり、更に甲板全体に万遍なく、機体を拘束するための係留環が設置されているので、発着艦スポット以外の場所でも駐機できる。

発着艦スポットに駐機しているヘリ 無数の係留環
発着艦スポットに駐機しているヘリ 甲板上の無数の係留環
※金沢港に寄港した「かが」にて(2017年)

敵の潜水艦を探知し追尾するには、哨戒ヘリコプターからソナーを連続して海面へ投下したり、ディッピング・ソナー(吊下式ソナー)を吊るして長時間ホバリングするなどの作業を連続させる必要があり、そのために哨戒ヘリコプターを交代させながら連続して飛行しなければならない。更に攻撃には、魚雷爆雷を搭載する別の哨戒ヘリコプターが投入される。
このような連続した対潜水艦戦を行うには、哨戒ヘリコプターの同時発着・同時運用が可能となっている必要がある。

ホバリングする哨戒ヘリ ソナーを降ろす哨戒ヘリ
ホバリングする哨戒ヘリ ソナーを降ろす哨戒ヘリ
※中国軍艦が監視する中、南シナ海で訓練する哨戒ヘリ(2018年)。バックの艦艇は「かが」。
ディッピング・ソナー 投下される魚雷
ディッピング・ソナー ヘリから投下される魚雷
※「かが」が金沢港に寄港した時(2017年)に初めて実物
を間近で見たが、こんなに大きいものだと思っていなかっ
た(ソナーの上部一部しか写っておらず)。

また、同時に複数のヘリコプターを発着艦させるために、艦橋構造物の艦尾側には甲板全体を見渡せる航空管制室が設けられているのも、他の護衛艦にない特徴である。

航空管制室
航空管制室 航空管制室(第2エレベーター上から撮影)
※窓が並んでいるところが航空管制室である。右側写真は第2エレベーター上から撮影。金沢港に寄港した「かが」にて(2017年)。

ヘリの格納と整備

全通看板の直下は広い格納庫になっており、艦首側と艦尾側に備えられている2基のエレベータにより格納庫と飛行甲板を繋いでいる。

格納庫
格納庫(艦首側から艦尾側を撮影) 格納庫(手前が第1エレベーターで奥が車両格納庫)
※左写真は艦首側から艦尾側を撮影。右写真は手前が第1エレベーターのスペースで、奥(艦首方向)が車両格納庫であり、天井(格子状の黒っぽい物体)がエレベーターの床裏面で、飛行甲板へ向かって上昇中。金沢港に寄港した「かが」にて(2017年)。
第1エレベーター 第2エレベーター
第1エレベーター 第2エレベーター
※左写真の第1エレベーターは格納庫に降りた状態。右写真の第2エレベーターは飛行甲板に昇った状態。金沢港に寄港した「かが」にて(2017年)。

格納庫の区分けは、艦首側から次のとおりになっている。
支援車両(牽引車、清掃車、フォークリフトなど)を格納する車両格納庫、艦首側の第1エレベーター、ヘリを格納する航空機第1格納庫、航空機第2格納庫、(ひゅうが型は、艦尾側の第2エレベーター)、整備を行う整備格納庫となる。これらの区分けはエレベーター以外に物理的に遮るものがないので、状況により併用も可能である。
なお、第1と第2航空機格納庫は、扉で物理的に区切ることができ、火災時の延焼を食い止める役割を持つ。

格納庫は最大搭載機数(ひゅうが型:11機、いずも型:14機)の全てを格納でき、それでもヘリコプターの移動や入替えが行えるスペースも確保できる。また、ヘリの整備・点検作業を行うための広いスペースが確保されているので、分解整備など大掛かりで高度な整備も艦内で行えるようになっている。

その他の用途

DDHはヘリ空母としてだけでなく、次のような幅広い用途に使われることを想定していて実績もある。

  • 艦内には格納庫に次ぐ広さの多目的区画があり、有事になると指揮所に使用される。災害時には、警察、消防、自治体関係者などが集まり、効率的な災害対策拠点と期待される。東日本大震災(2011年)の時に「ひゅうが」は指揮所や会議室に使われている。なお、この時、物資輸送・入浴支援・ヘリによる支援活動など行っている。
  • フィリピンが台風(2013年11月)により甚大な被害を受けた時には、ひゅうが型の「いせ」は洋上拠点として米海兵隊のオスプレー(MV-22)を発着艦させている。なお、日米共同訓練により、いずも型及びひゅうが型でのオスプレー運用が物理的に何ら支障もないことは、証明済である。
  • 格納スペースの広さから輸送艦としての用途がある。熊本大震災(2016年)の時には、「いずも」は災害派遣として横須賀港を出港し、小樽港(北海道)で陸自の車両と隊員を搭載し、博多港(熊本県)へ入港し、車両及び隊員は陸路で活躍し、また、この時「ひゅうが」も支援活動を行っている。
  • 医療施設も充実していて、有事の時は自艦や他艦の負傷者の治療を行えることはもちろんであるが、大規模災害時の救援活動も想定した施設となっている。艦外からの負傷者や病人の輸送には、搭載するヘリコプターを使用することを想定されているので、飛行甲板から初期治療を行う部屋までの通路はバリアフリーになっており、治療者をストレッチャーに載せたまま移動できる。

以下に、ひゅうが型といずも型の比較を、見た目サイズの違いよる運用能力及び兵装の観点から述べる。

ひゅうが型といずも型は共に全通甲板なので、外観は似たように見える。しかし、分かり易い見た目の違いとして次の点が挙げられる。

艦のサイズ
全長は、ひゅうが型は197mに対し、いずも型は248mと約50mの差があり、下図のように両艦を並べると一目瞭然である。
ヘリコプター発着艦スポット数
ひゅうが型は4カ所に対し、いずも型は5カ所であり、ひゅうが型が1カ所少ない。なお、全通甲板のメリットとしてスポット数が増え同時発着が可能になったことが挙げられるが、通常の対潜戦に於いてはスポット数が4カ所でも影響がないようである。
エレベーターの位置
第2エレベーターである艦尾側のエレベーターの位置に大きな違いがある。ひゅうが型では、艦首側の第1エレベーターと同様に甲板の中央を貫いているが、いずも型は右舷に張り出したサイドエレベーターとなっている。
サイドエレベーターを採用したことにより、次のメリットがある。
  • ひゅうが型は第2格納庫と整備格納庫の間が第2エレベーターとなりエレベーターのスペースに駐機できないが、いずも型は第2格納庫と整備格納庫を遮る位置に第2エレベーターがないので、両格納庫の間に駐機できないスペースがなく広く使える。
  • 右舷に張り出しいるため、エレベーターサイズを食み出す航空機であっても、昇降が可能となる。
甲板に記載されている数字
ひゅうが型はDDH-181の「ひゅうが」とDDH-182の「いせ」の2隻があり、いずも型はDDH-183の「いずも」とDDH-184の「かが」の2隻がある。各艦の飛行甲板の艦首と艦尾側にDDHの後に続く3桁数字の下2桁が記載されている。
言い方を変えれば、竣工の古い順に81から昇順になっている。よって、「81」と「82」はひゅうが型で、「83」と「84」がいずも型である。なお、艦首側の側面には3桁数字が記載されている。
ひゅうが型といずも型の比較

いずも型はひゅうが型より一回り大きくなり、次の運用能力がアップした。

  • 甲板が長くなり、ヘリ発着艦スポット数が1つ増え、5カ所に。
  • 格納庫が大きくなり、ヘリ最大搭載機数3つ増え、14機に。
  • 海上司令部としても利用される多目的区画が広く、かつ使い易くなり、艦隊旗艦としての能力が強化。
  • 物資や車両等の積載容量が増大。
  • 他の護衛艦艦に対する給油能力がアップ(護衛艦3隻分を有する)。

ひゅうが型といずも型は対潜水艦戦として同じであるが、21世紀前に策定されたひゅうが型の仕様と21世紀に入り策定されたいずも型の仕様には、運用構想に開きがある。
ひゅうが型以降のDDHは、砲や対艦ミサイルを装備しなくなった。しかし、それを除けばひゅうが型の固定武装は汎用護衛艦(DD)に引けを取らない程充実し、兵装は従来のDDHの延長上にある。一方いずも型の兵装は自艦の近接防衛用に限られ、他艦に守ってもらう立場となったが、その分、航空機運用能力、他艦補給能力などが強化された。

ひゅうが型の兵装には、いずも型にない次の兵装を備えている。
VLS
VLSは保管容器と発射筒を兼ねる複数のセルで構成される。ミサイルは弾頭を上にして保管し、その状態から垂直方向に向けて発射され、空中で向きを変えて目標に向かう。1秒に1発程度で連射でき、個々の発射筒が独立しているので、1基が故障しても他の基には影響を及ぼさない。
ひゅうが型では、飛行甲板後部に16セルが設けられており、対潜ミサイルや近距離対空ミサイルの発射が可能である。
VLS
VLS(ひゅうが) VLSの垂直発射の瞬間(いせ)
※「ひゅうが」にて
※ひゅうが型の「いせ」による垂直発射の瞬間
3連装短魚雷発射管
艦艇から魚雷を発射させる対潜用装置である。
3連装短魚雷発射管
3連装短魚雷発射管(ひゅうが型)
※「ひゅうが」にて
※魚雷発射の様子
QQQ-21ソナー
艦首下部に装備され、遠距離の潜水艦だけでなく、近距離の小さな目標(機雷や潜水艇)への捜索探知能力も優れている。
一方、いずも型は自ら攻撃する兵装を備えていなく、次の自艦を守るための近接防御システムを備えているにすぎない。
SeaRAM近接防衛システム
超音速対艦ミサイル防衛用である。射程距離は、400m~16kmである。いずも型で、初めて装備されたもので、2基装備されている。
SeaRAM
SeaRAM(護衛艦「かが」)
※ミサイル発射の様子
※金沢港に寄港した「かが」にて
(2017年)
ファランクス近接防衛システム(CIWS)
CIWSは艦艇に接近する対艦ミサイルや航空機を迎撃する最後の防衛手段となる。20mm機関砲が6砲身装備されており、発射速度は毎分3,000~4,500発である。脅威が迫ってくると全自動で射撃が行われる。有効射程距離は1.5km程度である。
いずも型は、ひゅうが型と同様に2基(艦首と艦尾に1基ずつ)装備されている。
CIWS
CIWS(護衛艦「かが」)
※射撃の様子
※金沢港に寄港した「かが」
にて(2017年)
魚雷防御システム
魚雷の防御用であり、いずも型のみ1式装備されている。

世界情勢の変化に伴いDDHの運用面に於いて、これまで現実的にはハードルが高いと思っていた以下の変貌が起きている。

DDHの長期遠方航海

中国は管轄権を主張している九段線※2内の南沙諸島や西沙諸島で岩礁を埋め立て、空港を建設するなどして軍事拠点化を進めている。この海域は中東・ヨーロッパと東アジアとを結ぶ重要な航路上に位置するため、一国がここの管轄権を主張することは、周辺国だけでなく日本にとっても安全保障上の重大問題である。
そのため日本政府は中国の身勝手な実行支配を打破するために「自由で開かれたインド太平洋作戦」を掲げている。また、米国は九段線内に於いて、「運行の自由作戦」として米海軍艦艇を通行させる行為を実行し、現在では英国、フランスも同調し艦艇を派遣している。
このような状況の中、近年、海上自衛隊はDDHなどの護衛艦を日本から遠く離れた南シナ海近辺へ派遣し、他国と共に共同訓練等を行い、中国をけん制する新たな任務を遂行している。

  • 2017年、DDH-183「いずも」とDD-113「さざなみ」は、東南アジア諸国を巡る長期航海を行っている。南シナ海に面する各国海軍との共同訓練を行なったり、各国の若手海軍士官を護衛艦で乗艦実習をさせたりしている。
    この航海で中国の人工島がある南沙諸島に近づくも折返ししている。
    いずも さざなみ
    DDH-183「いずも」(護衛艦いずも型)の前方上空から DD-113「さざなみ」(護衛艦「たかなみ」型)の側面
  • 2018年、DDH-184「かが」、DD-105「いなづま」及びDD-117「すずつき」は、「平成30年度インド太平洋方面派遣訓練」を行っている。3隻は米海軍空母「ロナルド・レーガン」などと訓練をしつつ南下し、東南アジア(フィリピン、インドネシア及びシンガポール)だけでなく、途中「すずつき」は帰国するも「かが」と「いなづま」はインド洋へも向かいスリランカとインドに寄港し、訪問国、米国及び英国と共同訓練をしている。
    この航海では護衛艦が南シナ海に入るや否や中国軍艦が現れ、「かが」を数日間に渡り追跡している。「かが」は追跡された状態で、哨戒ヘリを飛ばし、ソナーによる敵潜水艦を捜索する訓練を行っている。その一方で、中国を過度に刺激しないように、敢えて南沙諸島周辺を迂回するルートを取っている。
    かが いなづま すずつき
    DDH-184「かが」(護衛艦いずも型)の側面前方から DD-105「いなづま」(護衛艦むらさめ型)の側面 DD-117「すずつき」(護衛艦あきづき型)の側面前方から
現状の日本は「航行の自由作戦」を支持しているが、参加していない。しかし、米国の軍事専門家には、米国の同盟国である以上、いずれ日本も「航行の自由作戦」に参加することになり、中国と軍艦どうしの局所的な争いが起こり得るとみている人もいる。
九段線とは、中国が南シナ海に於いて、自国の管轄権が及ぶ範囲を地図上に9つの破線で示したもの。これは中国が勝手に引いたもので周辺国を納得させる根拠がない。2013年、フィリピンは国際仲裁裁判所へ提訴し、九段線の歴史的権利を主張する法的根拠はないとの判決が出ているが、中国は無視している。
九段線

空母化

「防衛計画の大綱」は日本の安全政策の指針となるものであるが、通常は10年毎に見直すところを、安倍政権は5年で改定した(2018年12月に閣議決定)。そこでは、現有の艦艇からSTOVL機の運用を可能にするための措置を講ずることが盛り込まれた。この大綱に従い「中期防衛力整備計画」(2019年度~2023年度)では、「STOVL機の運用が可能になるように、いずも型の改修を行う。」と具体的に示している。更に、昨年12月の閣議決定では、F-35の調達を大幅に増やし(42機から147機に)、増加分の42機がSTOVLのF-35Bとなっている。
つまり、いずも型DDHがF-35Bを搭載し運用できるように改修することになった。

2017年7月にいずも型の「かが」が金沢港(石川県)に寄港した時に乗艦したが、物理的に多少の改修が必要になるにしてもF-35Bを搭載できるなと感じ取った。しかし、戦後、憲法9条に基づき「専守防衛」を掲げ「攻撃型空母」は保有できないとしていた日本政府が僅か1年余りでF-35B搭載を決定することになるとは思いもよらなかった。

次に、空母化に改修する上で問題になりそうなところを挙げ所見を述べる。
物理的なサイズ
F-35Bのサイズは、全長15.6m×全幅10.7m×全高4.4mである。
一方、格納庫のサイズは長さ125m×幅21m×高さ7.2mであり、第1エレベーターは長さ20m×幅13mであり、十分収まるサイズである。また、第2エレベーターは長さ15m×幅14mでありエレベーターの床内に収まらないが、第2エレベーターは右舷に張り出しているため、F-35Bの尾部部分を食み出すように乗せれば昇降が可能である。
F-35Bの搭載運用に於いて、現状のままで物理的なサイズに問題はない。
甲板の耐熱性
F-35Bは垂直に着艦するため、着艦時の排気ノズルは下に向けられ、高温の排気が飛行甲板に吹付けられることになる。そのため甲板が傷まないように、耐熱処理を施す必要がある。
発艦のための滑走路
F-35BはSTOVL(短距離離陸/垂直着陸)機と言われているが、VTOL、つまり滑走路を使わずに垂直に離着陸することができる。となると、上記で述べたように甲板を耐熱処理するのであれば、甲板から垂直に発艦すれば良いではないかと思ってしまう。しかし、垂直離陸を行うと積載量に制限を受けたり、大量の燃料を消費することから、DDHでの運用に於いても短距離離陸が前提になっていると思われる。
英国の空母「クイーン・エリザべス」(全長284.0m×全幅73mで、いづも型より大きい。)は甲板にスキージャンプ台を付けF-35Bを運用している。スキ―ジャンプ台がなくてもSTOVL機を発艦可能であるが、スキージャンプ台を利用すれば積載量や燃料消費の面で有利になるメリットがある。
クイーン・エリザべスとF-35B
空母「クイーン・エリザべス」
※スキージャンプ台から発艦するF-35B
一方、米海軍の強襲揚陸艦「ワスプ」(全長257.3m×全幅42.7m。いずも型より少し大きいものの近いサイズ)は甲板にスキージャンプ台がなく平面の甲板かつカタパルトなしで、F-35Bを運用している。なお、次の動画を見ると、発艦時の滑走に100m強しか要していない(但し、この動画が実用的な燃料と兵器を搭載した上での離陸なのか否かは、私には分からず)。
ワスプとF-35B
強襲揚陸艦「ワスプ」
※発着艦するF-35B
「ワスプ」の動画を見る限り、例え実用的な運用には動画の離陸距離より長い距離が必要であったとしても、いずも型甲板の長さは動画の離陸距離より十分長いことから、いずも型はF-35Bの滑走に必要な長さを確保できていると思って良いのでは。従って、スキージャンプ台にはメリットがあるにせよ、スキージャンプ台のような大掛かりな改修を敢えて行う必要がないように思う。
F-35Bの滑走路として、甲板左端のヘリコプター発着艦スポットを避け甲板中央を使えればベストと思うが、現状そこには第1エレベーターがあるので、発着艦スポット上を使うしかないのかもしれない。
追記
空母化に向け1回目改修を終えた護衛艦「かが」

いずも型護衛艦「かが」は、空母化に向けて大規模改修を2回行うことになっており、先日(2024年3月29日)1回目の改修が完了した。

今回の改修概要は次のとおり。
  • Fー35Bの垂直着陸を可能にするために、甲板に耐熱処理が施された。
  • 滑走距離の確保と発艦時の乱気流抑制のために、艦首形状が台形から四角形に改造された。
  • 艦首から艦尾まで伸びる黄色ラインなど、発艦時の目印となる標識がペイントされた。

今後の2回目改修では、内部の区画変更などが行われ、数年後に完成予定である。

一方、同型の「いずも」は甲板の耐熱処理を終了しており、今年度から艦首形状改造に入る予定である。

なお、いずも型の空母化についての政府の見解は、Fー35Bで構成する部隊を常時搭載することはないので、憲法上保有が許されない「攻撃型空母」には当たらないである。

update on Apr.10,2024