第5世代ステルス戦闘機F-35

今年(2019年9月16日)も例年の如く航空自衛隊小松基地で航空祭が行われた。私は2012年に航空祭を見学したことがあり、それ以降目新しい展示もないようなので行っていなかった。ただ、地元新聞記事に今年の9月から小松基地上空に第5世代戦闘機F-35Aが飛んでいる旨が載っていたので、航空祭でF-35Aを見学できるのであれば是非行きたいと思い、航空自衛隊広報に問合せたところ「上空を飛んだだけで、小松基地に着陸していないし、航空祭でも見学できない」とのこと。ファントムやF-15は2012年の航空祭で間近で見学し、かつ子供の頃はファントムを、現在はF-15を騒音と共に嫌と言うほど見せられているので、今年も航空祭に行かなかった。

やはり今関心のある戦闘機は、何十年も前に開発されたものでなく、最新鋭のF-35である。現在日本はファントム(F-4EJ改戦闘機)の後継機及びF-15(初期型F-15J/DJ)の後継機としてF-35を導入中である。この第5世代の最新鋭ステルス戦闘機F-35がどれほどの実力を持っているのかを解説する。

F-35の特徴

F-35は、多用途な機種の役割を備えた統合打撃戦闘機として開発された。敵機と空中戦を行う戦闘機やミサイルや爆弾で地上の目標や軍艦を破壊する攻撃機だけでなく、敵のレーダーや電波を探知・妨害する電子戦機としての機能も兼ねている。この電子戦機の機能を持たない従来だと、軍事施設を攻撃する場合は電子戦機と協力して戦う必要があった。
以下に、F-35に於ける大まかな機能の特徴を述べる。

ステルス性

第5世代戦闘機の明確な定義はないのかもしれないが、第4世代(e.g. F-15)と明確に異なる点はステルス性があると言うことである。
ステルス性とは、レーダー※1で発見され難い、つまり相手に見つかり難い能力のことである。
レーダーで探知されないようにするには、レーダーから発信された電波が戦闘機にぶつかった時に発信元に戻さないようにすれば良いことになる。そのため、ステルス戦闘機は、電波吸収塗料を塗り電波の一部を吸収したり、反射波に戻さない形状にしたりして、レーダーによる探知を困難にしている。なお、ステルス戦闘機はレーダーに全く映らなくなるのでなく、飛行中の戦闘機と入射波の角度は変化するので、角度により映り易くなる瞬間が発生する。

代表的な第5世代ステルス戦闘機として、F-35の他、世界初ステルス戦闘機で世界最高の戦闘能力を持つと言われているF-22(愛称、ラプター[Raptor])、ロシアのフホイSu-57、中国の殲-20(J-20)がある。
F-35 F-22 Su-57 J-20
F-35 F-22:ラプター フホイSu-57 J-20

Su-57とJ-20のステルス性能力は未知数であるが、非ステルス戦闘機がステルス戦闘機と戦うことは圧倒的に不利になるので、ロシアや中国がステルス戦闘機を保有する以上、日本がステルス戦闘機を保有する意義は大きい。

なお、ステルス機は最新鋭戦闘機であるものの非ステルス機に比べ次のデメリットがある。
空気力学的に不安定
ステルス性を重視した機体形状は、空気力学的に不安定な機体となる。そのため、高度なエレクトロニクスで補い、操作安定性を確保する必要がある。
電波使用制限
ステルス機がレーダー等を使用すると電波を発信してしまうため、相手に逆探知される恐れがあり、ステルス性の意味がなくなる。そのため、極力電波を発信しないようにする必要がある。
搭載量制限
ミサイル等の兵装を機外に装着するとステルス性が失われることになる。ステルス性を保つには機内に取込む必要があるため、兵装搭載量が小さくなる。
なお、勿論F-35は兵装を機外に装着できない訳でない。ステルス性を強く要求される局面は、戦闘空域の作戦行動を支配する航空優勢を確保するために、F-35が先陣を切って敵地に進入し敵の反撃能力を大きく喪失させる時である。従って、航空優勢が確保された後であればステルス性の必要性は弱まるので、兵装を機外に装着した運用が行われる。
維持費の高額
高度なステルス性を維持するためには、常に機体表面の研磨及び電波吸収塗料の塗装が必要になるため、維持費が高く付く。
レーダーとは、電波を発信し、空中に存在する何らかの物体(e.g. 戦闘機)にぶつかって戻ってきた電波を受信する装置である。電波は波なので、何らかの物にぶつかると反射して戻ってくる性質があり、それを利用していると言うことである。地球上では電波の媒質が大気であることから真空と異なり、光速より若干遅くなるものの、入射波と反射波は、同じ速度で同じ周波数である。
レーダーにより物体の位置を求めるには、まず次の情報が必要である。
  • 電波の発信から受信までの時間
  • 物体の方角
  • 物体の仰角
その上で、方角と次の計算結果より、物体の位置を特定できる。
  • レーダーと物体の距離 = 電波の速度 × (発信から受信までの時間 ÷ 2)
  • 物体の高さ = レーダーと物体の距離 × sin(仰角)
  • 物体との水平距離 =レーダーと物体の距離 × cos(仰角)

MADL

F-35は、アクティブ電子走査アレイ・レーダー※2を積み、探知距離の長い赤外線・光学センサーを持ち、自機に照射されるレーダー波を解析・対処するシステムを備えているので、1機の戦闘機として十分な状況認識を得ることができる。
それに加えMADLと言う秘匿性の高いデーターリンクを備えている。秘匿性が高いと言うことは、敵に発見されることを防ぐためにレーダー、通信、電波妨害などのあらゆる電波の発信を制限した状態に於いてでも、この安全なデータリンクを使って、情報を遣り取りできることを意味する。
MADLの電波は数十km程度は楽に届く(100km位)と言われており、従来の戦闘機と比べ、F-35は広い範囲を少ない機数でカバーできる。編隊内のF-35同士はMADLで常時接続されており、各機のセンサーが入手する情報をリアルタイムに共有すると共に、同時並列的に処理される。更に、F-35同士だけでなく、従来のデータリンクとも繋げることができるため、自軍の各種ネットワークのあらゆる情報を利用することができる。例えば、F-35は、イージス艦や電子戦闘機が持つ強力なレーダーの情報をリアルタイムに取込みF-35のレーダー能力を大きく超えた範囲まで攻撃可能となる。このことは敵機から見れば、自機のレーダー範囲外から攻撃されることになる。
このようにMADLの高度なデータリンクにより、F-35パイロットは、高い状況認識(SA)が可能となる。。

フェーズドアレイ・レーダー(Phased Array Radar:PAR:位相配列レーダー)の一種で、同時に多方向探索や多目的追跡・照準ができる。
従来のパラボラアンテナのレーダーは反射器の皿が向いている方向にしか電波が飛んでいかないため、広範囲を策敵するためにはアンテナをくるくる回す必要がある。一方、フェーズドアレイ・レーダーは小さなアンテナの集合体であり、アンテナの向きを変えずに瞬時に電波の向きを変えることができ、フェイズドアレイアンテナが向いている上下左右の方向全てに対し電波の照射が可能である。
F-35のフライトテストに於いて、160km(100マイル)圏内にある23の標的の内、約3秒で19の標的を捕捉・追尾し、約9秒で全ての標的を捕捉している。また標的の探索中でも捕捉済の標的を継続追尾でき、標的の追尾・識別情報はコップピットのディスプレイに表示される。
ちなみに、イージス艦が圧倒的な対空戦闘能力を持つことができるのは、フェイズドアレイ・レーダーを駆使し、飛来する多数のミサイルを同時に撃墜しつつ、ミサイルを発射した相手を攻撃することができるからである。
AESAレーダー コックピットのディスプレイ
AESAレーダー ディスプレイに表示される追尾中の航空機
※円形部分がAESAレーダー
※多くの航空機を追尾中

HMDとDAS

HMDとバイザー越しの視界
HMDとバイザー上のディスプレイ

F-35のパイロットは、最新鋭のヘルメットを着用する。それは、HMDと言い、ヘルメットのバイザーがディスプレイになっていて、さまざまなデータや画像を表示できる。それを実現しているのは、EODAS(以下、「DAS」と言う。)である。

F-35の球体映像

F-35の機体に6個のカメラ(赤外線画像センサー)を取り付け、機体周囲を映像化している。そして6個の映像をつなぎ目なしに合成し、機体を中心に球体の映像をリアルタイムに作成する。その映像は、パイロットが被るヘルメットのバイザー上に、視界に重なる形で投影される。つまり、パイロットの顔が向いている方向の映像を見ることができる。
DASを利用しない肉眼では、機体の後方や床下はパイロットの死角になるが、DASを利用すれば360度全てを見渡すことが可能となる。例えば、顔を下に向ければ、コックピットの床を通り越して地上が見えることになる。

また、センサー機能もあるので、映像だけでなく、DASの有効範囲であればパイロットが気が付かない敵の動きも察知することができ、パイロットが味方か敵か判別できるように航空機を認識し明確に表示し、航空機がパイロットの視界から外れても追跡し続けている。なので、例えば先にミサイルを発射しておいて、後でどの敵機に命中させるかを決めることも可能となり、また真後ろにつかれた戦闘機も攻撃できる。従来の空中戦では敵の後ろを取り、前の敵を攻撃していたが、F-35の後ろを取っても有利な状況でなく、F-35から攻撃を受けるため、敵はうかつに近づけない。更に、夜間は暗視映像を見ることができ、悪天候や深い霧でも影響がない。
F-35のHMDとDASにより、パイロットは他のシステムにはない機能を昼夜を問わず提供され、MADLと同様に高い状況認識(SA)が可能となる。

HMD DAS

F-35は米国の三軍の共通機として開発された戦闘機である。そのため1機種の原型から、空軍向けの「A型」、海兵隊向けの「B型」及び海軍向けの「C型]の3タイプが存在する。
以下に、それぞれのタイプの特徴など違いを解説する。

A型

F-35A

空軍向けで基本型とも言われ、陸上基地から運用するCTOL型である。導入国が最も多く、12カ国は確定(シンガポールはタイプが未確定、トルコは外れる可能性あり)である。

A型には、次の特徴がある。
フライングブーム方式(空中給油)

F-35Aの空中給油(フライングブーム方式)

  • A型のみ、25mm機関砲GAU-22を機内に固定装備している。
  • 胴体上面中央に空中給油用の受油口があり、給油は米国空軍のフライングブーム方式である。
  • 3タイプの中で最も大きな重力荷重(G)に耐えることができる。
  • 兵装搭載能力はC型と同様に、B型より大きい。
  • 空虚重量は3タイプの中で最も軽い。

B型

F-35B
海兵隊向けで、軽空母や強襲揚陸艦などの艦艇からの運用を想定したSTOVL型である。重量が軽ければVTOLも可能である。また、艦艇からの運用だけでなく、陸上基地の滑走路が壊された場合に、あるいは仮設滑走路や民間の小さな飛行場での運用も期待できる。なお、B型の着陸は、垂直着陸だけでなく短距離着陸も可能であり、英国の空母「クイーン・エリザべス」では短距離着陸の運用も行っている。
クイーン・エリザべスとF-35B
※ 短距離着陸・短距離離陸
導入国は米国、日本と英国の3カ国のみ(シンガポールはタイプが未確定)である。

エンジン排気ノズルは、「3ペア回転ノズル」と呼ばれ、斜めに3分割されたダクトをベアリングで結合し、それぞれが逆向きに回転することにより、水平の0°~下方に向かって90°強の範囲でノズルを曲げることができる。

3ベア回転ノズル
ノズルの3つの角度
※3枚の写真は、左から0°、45°、90度強

ノズルを斜め下に曲げることにより短距離離陸を可能にし、ノズルを下に曲げることにより垂直離陸や垂直着陸を可能している。また、離着陸には更に、「リストファン」と言う巨大風車の揚力も必要になる。
リストファンはコックピットすぐ後方に位置し、エンジン前方から伸びている軸(ドライブシャフト)を介して回り、揚力を得ている。この垂直方向の推力は排気ノズルからの推力とほぼ同等である。この構造により、ホバリング時に必要なエンジン出力は60%程度で済む。このリストファンがスペースをとるため、B型はA・C型に比べ、搭載燃料が少なく、機内兵器倉のサイズが小さい。その結果、A・C型に比べ航続距離が短く、機内搭載可能な兵装の数が少なく、また搭載できない兵装もある。
横転安定はエンジン抽気(エンジンから抽出される圧縮空気)を利用した左右のロールポストで制御する。また、リフトファンすぐ後方には、補助エアインクテイクがある。これは、低速時に於けるエンジンへの空気吸入量を補うためのものである。

エンジン(F135-PW-600)
F-35Bのエンジン(F135-PW-600)
機内のリフトトファン・ロールポスト・ノズルの位置
F-35B機内のリフトトファン・ロールポスト・ノズルの位置
垂直離着陸の空気の吸入と排出
F-35Bの垂直離着陸時の空気の吸入と排出
※ 青矢印⇒吸入、赤矢印⇒排出
離着陸時に開く扉
F-35Bの着陸時の開く扉
①リフトファンの上扉
②リフトファンの下扉
③補助エアインクテイクの扉
④排気ノズルが下向きになる時に開く扉
空中給油は米国海軍や欧州で標準のプローブ&ドローグ方式で受油用の収納式プロ―ブを機首右舷に装備している。
プローブ&ドローグ方式(空中給油)
F-35Bの空中給油(プローブ&ドローグ方式)
艦上でのSTOVLと空中給油

※ ホバリングだけでなく、その状態で横移動も可能(1分54秒~)

C型

F-35C

海軍向けで。カタパルトアレスティング・ワイヤーを備えた(大型)空母から運用する艦上型である。導入しているのは米国の海軍と海兵隊のみ。

カタパルト発艦 アレスティング・ワイヤー着艦
F-35Cのカタパルト発艦 アレスティング・ワイヤー着艦
C型は大型空母用のため、A型・B型にない次の特徴がある。
  • 全幅と全高は大きい(全長は同じであるが、主翼・水平尾翼・垂直尾翼が大きくなっている。これは、航続距離・時間の延伸と着艦時の低速性能向上のため)。
  • 主翼の折り畳み機構(機体の省スペース実現のため)。
  • アレスティング・フックの装備(アレスティング・ワイヤーに引っかけて航空機を止めるためのもの)。
  • 主脚の強化、前脚のダブルタイヤ化(着艦時甲板に激しく叩き付けられるために強化)。
  • ランチバーの装備(カタパルトのシャトルに引っ掛けるためのもの)。
主翼の折り畳み
F-35Cの主翼の折り畳み

また、空中給油受油装置はB型と同じのプローブ&ドローグ方式である。機内兵器倉の大きさと兵装装備能力はA型と同じである。翼の大型化や折り畳み機構、着艦時の強化などにより、空虚重量は3タイプの中で最も重いが、翼面積と燃料タンク容量が大きいため、航続距離はA型と変わらない。

空母での発艦・着艦

タイプ別スペック一覧

A型、B型及びC型のスペック一覧は次のとおり。

タイプ A型 B型 C型
全幅 10.7m 10.7m 13.1m
全長 15.7m 15.6m 15.7m
全高 4.38m 4.36m 4.48m
主翼面積 42.7㎡ 42.7㎡ 62.1㎡
水平尾翼幅 6.86m 6.65m 8.02m
空虚重量 13,291kg 14,651kg 15,785kg
機内燃料搭載量 8,278kg 6,125kg 8,960kg
兵装搭載量 8,160kg 6,800kg 8,160kg
最大重量 31,752kg 27,216kg 31,752㎏
エンジン F-135-PW-100 × 1基 F-135-PW-600 × 1基 F-135-PW-400 × 1基
通常最大推力 11,340kg 11,340kg 11,340kg
アフターバーナー推力 18,144kg 18,144kg 18,144kg
最高速度
(機内兵装搭載時)
マッハ1.6 マッハ1.6 マッハ1.6
戦闘行動半径
(機内燃料のみ)
1,093km以上 833km以上 1,100km以上
航続距離
(機内燃料のみ)
2,200km以上 1,667km以上 2,200km以上
荷重制限値 9.0G 7.0G 7.5G
標準機内搭載兵装 ・25㎜機関砲GAU-22
・AIM-120C空対空ミサイル × 2発
・GBU-31 JDAM誘導爆弾 × 2発
・AIM-120C空対空ミサイル × 2発
・GBU-32 JDAM誘導爆弾 × 2発
・AIM-120C空対空ミサイル × 2発
・GBU-31 JDAM誘導爆弾 × 2発
乗員 1名 1名 1名

各国の導入計画

F-35の導入を決めているのは、主導開発国の米国を含め14カ国であり、現時点の予定導入機数等は次のとおり。

国名 導入タイプ 予定導入機数
米国 A/B/C 2,456機
日本 A/B 147機
英国 B 138機
豪州 A 100機
イタリア A/B 90機
ノルウェー A 52機
イスラエル A 50機
韓国 A 40機
オランダ A 37機
ベルギー A 34機
ポーランド A 32機
デンマーク A 27機
シンガポール AorB 12機
トルコ A 100機?
※ イスラエルは更に+25機の可能性有り
※ トルコは、ロシアからS-400地対空ミサイル導入計画があり、米国が情報漏洩懸念を持っていることから導入無しになる可能性有り
※ 開発計画に参画していたカナダは、F-35Aの65機導入計画が棚上げ状態
日本の計画
日本がF-4EJ改戦闘機の後継機としてF-35の導入を決めたのは2011年のことであり、42機のF-35Aの調達を計画していた。その後、昨年(2018年)12月に初期型F-15J/DJの後継機として更に105機追加調達することになり、追加分の内42機をSTOVL能力を備える機体とすることになった。つまり、日本は計147機の内、A型が105機、B型が42機を導入することになり、米国に次ぐ2番目の機種数となる。
なお、中期防衛力整備計画(2019年度~2023年度)に於いて、必要な場合には、いずも型ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)をSTOVL機(つまり、F-35B)運用可能になるように改修を行うことになっている。